※この記事は掲載元(月刊ゴルフ用品界 GEW)の許可を頂いて転載しています。
掲載元 月刊ゴルフ用品界 2018年12月号(見本誌の申し込みはこちらから)
東京工業大学は、1881年(明治14年)に東京職工学校として設立され、開国間もない明治初期に、産業技術の近代化を推進する人材の育成を行ってきたことに端を発しており、2011年(平成23年)には、創立130周年を迎えた国立の理系総合大学です。
大岡山、すずかけ台、田町の3つのキャンパスに学士課程約5,000人、大学院課程約5,000人の計約10,000人(留学生:約12%)の学生が学んでおり、教員約1,200人と職員約600人で構成されています。
2016年(平成28年)には、大規模な教育改革がスタートし、学修・修博一貫教育というキーワードで、博士課程の学生にもリベラルアーツ教育を必修とするなど、特徴のある教育体系を打ち出しています。
大学ゴルフ授業研究会の世話人でもある「野澤むつこプロ」を非常勤講師としてお招きして、授業を実施した。
位置付けとしては、私が所属するリベラルアーツ研究教育院の広域教養(自由選択)科目であるウェルネス科目1単位分であり、学内でのガイダンスと講義に2コマ分を費やす以外は、全てゴルフ場とホテルでの3泊4日の集中講義で、「より本物の体験の提供」を意図して計画した。
それが実現できた背景には、野澤先生が普段ご指導されている千葉県市原市の「森永高滝カントリー倶楽部」(18ホール、PAR 72、ベントグリーン/距離:7094ヤード:OUT 3262Y、IN 3322Y)の丘陵タイプの雄大なコースと、併設されている充実したエキストラホール(9ホール、PAR 31、ベントグリーン/距離:1658ヤード)と練習場、および練習グリーンを存分に活用させていただけたことが非常に大きい。
参加者は、授業初年度ということもあり、TAも含めて8名(学部1年生〜修士2年生)とアットホームな人数に抑えたが、ベストスコア68を誇るゴルフ部の男子学生から、130〜140程度の初級者の女子、そして初心者の男子まで、幅広い対象を指導していただいた。
学生は、初日から天然芝でアプローチショットを心行くまで打ったり、広めのバンカーに全員が入って出すことや寄せの難しさを体験したり、2.3日目の午後はエキストラHでのコース体験をし、4日目には、18Hを全員で回るという密度の濃い授業を展開していただいた。
「生涯にわたってゴルフを楽しむための基礎的な知識・技能・態度について学び、実際にコースに出て実践経験を積むこと。」を目的の1番目に据え、私の研究費から「PGAジュニア基本ゴルフ教本」を全員にプレゼントして教材とし、「頭と身体と心を使うこと」を学生に推奨しながら授業を展開していった。
昨今、形式だけのアクティブラーニングの拡がりと誤解が問題となり、「ディープ・アクティブラーニング」と称して、他者との関わりや問題解決などを通して「自分自身と向き合うこと(内省)」を支援することの重要性が叫ばれつつあるが、この授業でもゴルフを通した学びと人間的成長を促すために、自分と向き合う学業支援ツールとして、PDCAサイクルとCBTのコラム表の知見を援用したオリジナルの用紙に、半日ごとに記録の記入を求めた。
学生は、ペアで相互にスマホでの動画撮影をしたり、フィードバックの記述をし合い、自分なりの改善点を探究した上で、最後に教員がアドバイスを書くという形式で「学びの場の共創」と「相互支援環境の構築」を大切にしている。
学生の学びの記述等は他に譲ることとするが、思い出深いシーンとしては、3日目の夜に自腹を切ってハーフのナイターゴルフに挑んで自己研鑽をしていた3人の男子、人生初のワンオンをとても喜んでくれた女子、本コースに出る4日目の朝に駐車場をジョギングして気合を入れていた男子、真っ黒というよりも真っ赤に日焼けしながら頑張ってくれた初心者の男子の顔などが鮮やかに蘇ってくる。
幸い来年も参加したいと既に希望してくれている学生もいるので、継続して実施できるよう、私も努力して行きたい。最後になりますが、用具のご提供をいただいた日本ゴルフ用品協会の皆様、熱心にかつユーモアも交えてご指導くださった野澤先生に深く感謝いたします。
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院/環境・社会理工学院 助教
石川 国広(いしかわ・くにひろ)
1963年生まれ。茨城県立水戸第一高等学校卒業。筑波大学体育専門学群健康教育学(生理学)専攻卒業。筑波大学大学院修士課程体育研究科コーチ学(野外運動)専攻修了。体育学修士。保有資格は、中学・高校教員専修免許(保健体育)、産業カウンセラー、Project Adventure ファシリテーター、Attitudinal Healingファシリテーター、全日本スキー連盟準指導員、PADI オープンウォーター・ダイバーなど。
大学では、ウェルネス科目を主に担当し、講義科目は、メンタルヘルスやストレスマネジメント、認知行動療法などを中心とした学部生向けの「健康科学概論」など。
実習科目は、学内で「バドミントンでディープ・アクティブラーニングを」、学外集中で「スキーでメンタルヘルスを」「ゴルフでディープ・アクティブラーニングを」、「アドベンチャー・ベイスト・ロープスコースキャンプ」などを担当している。所属学会は、スポーツ精神医学会、野外教育学会、認知療法・認知行動療法(CBT)学会、うつ病学会、アメリカ体験教育学会など。特に、体験的学びを支援するツールの開発やカウンセリング心理学、CBT等を探究している。
今回の実習では、私が、まだスコアで100を切ったことがない初級者ということもあり、授業のコーディネートやファシリテーションを主に担当した。